日枝露の合戦~Snow Day~

 じりりりりりり
 目覚ましの音。
 当然目を覚まさない。
 ぴぴぴぴぴ
 更に目覚まし追加。
 が、目覚めない。
 りりりりりり。
 更に戦力投入。
 目覚m(ry
 10分経過。
「のあ"ぁあ"あああ」
 トドではない。
 更に10分経過。
「んぁ…」
 しゃあない、起き
 ……れない。
「さぶっ」
 外を見る。
「おぉー」
 一面まっしろけっけ。
 つまり雪が積もっていた。

 クソ寒い中、かったるい雪道を歩き登校。
 途中、子供たちが雪玉を投げながら友達とはしゃぎまわってる。
 皆、いずれも笑顔で心から楽しんでいる様子。
 今のワタシには眩しすぎる光景。

 どうもこの頃心の内がモヤモヤする感覚。
 近年稀に見る寒さが原因、ってわけじゃない。
 原因は…わかっているつもりだ。
 あの一件。
 月見丘神社でのこと。
 現実は物語みたいにうまくはいかない。不条理な事実だけを突きつけられる。
 こんなことでウジウジするとか、ワタシにも乙女チックな感情が残ってたんだな、と多少ビックリする。
 もしくは女々しいともいう。
 ワタシがそんな様子だからなのか、どうなのか。
 教室なんかで時折委員長が何か言いたげな視線を向けてくる。
 そんな委員長にひらひらと手を振って返す。
 これはワタシの問題だ。
 いくらおせっかい委員長でもそこまで面倒を見る筋合いはないだろう。


 苦労して学校にたどり着き、ぼ~っとしながら授業を聞き流し、そしてまた面倒な雪道を苦労して帰るだけ。
 ……のはずだったんだが
「さて」
 一面銀色に染まった校庭にて、会長が皆を見回す。
「野郎ども、合戦だ」
 放課後、何故か招集がかかっていた。

 どうも年が明けてから最近、何事も気が乗らん…
 原因は……まぁわかってるんだけどさ。
 ふぅ…
「いや、ワタシは――」
 生徒会の連中に混じって馬鹿騒ぎをするような気分でも無かったんで、今回はお断り。
 ……させてもらえなかった。
 ばすっ!
 断ろうとしたら冷たいものを投げつけられた。
「答えは聞いていない」
 さいですか…

 まぁ、なんてゆーか、昔は雪が降ったらはしゃいで遊んでたけど、今じゃただ寒くて鬱陶しいだけだしな。
 一部騒いでいるアホどももいますが。

 ここに集まった面々。
 いつもの生徒会メンバーにヘタレ新聞部、国語の先生に、ちょっと顔を思い出すことのできない人も何人か。
 そもそも、接点があったかどうかも覚えとらんが。

「馬鹿キク!明日センター試験なのに風邪ひいたらどうするのよ!」
「馬鹿だな」
「救いようのないくらいな」
「あ、えーと」
「あんた、今でこそ不死身だけど昔、ひどい熱出したことあったの忘れたの?」
「あ、いや、その…」
 何かお嬢さんにひたすら怒鳴られ縮こまっている会長。
 うむ、どっかで見たような光景だな。
「それでこっちを見ないでくれますかねぇ!?」
 わかってんじゃん。

「うむ、この一面の銀世界にこそ、この俺の肉体美が映えるというものか」
 着ている上着を脱ぎ去り、見事な逆三角形のボディを曝す筋肉ダルマ。
 このクソさみぃのに一人だけ暑苦しい。
 対して、完全防寒姿の木之下君。やたらモコモコしてて暖かそうですね。
「雪合戦なんて何年ぶりかしら?」
 大人げなくはしゃいでる国語教師。
「そもそも一緒に遊ぶ友達なんていなかっただろ」
「何か言った?バトく~ん?」
 木之下君の頭をわしわし掴む先生。何か珍しい光景だ。


「まずはチーム分けだが」
 木之下君がそう言い、何処からともなく箱を取り出す。
 マジでどこから取り出した?
「ここにくじ引きがある。何の仕掛けも仕組みも無く、本当に作者がサイコロを振ってランダムに決めたチーム 編成になるから例えパワーバランスがおかしくなっても恨みっこなしだ。良いな?」
「地味に怖ぇえんだが」

結果
キク:1
バト:5
ナタ:3
ハード:1
ゼノ:5
茉莉:2
ホロホロ:3
春香:2
雪原:3
露:1
香純:4
莢架:5

「……というわけで、偶数チームと奇数チームに分かれるぞ」
「ちょっと待った」
 そのまま2チームに分かれようとした時、マホちゃんが即座に待ったをかける。
 なんてゆーか、背負った怒気が怖いよ。
「明らかに人数比もパワーバランスもおかしすぎですよねぇ!?」
「あっ、何かそれ、僕のセリフっぽいね」
「あくまでランダムに決めるから恨みっこなしと言ったはずだが?」
「それでも限度があるじゃないですか!?何ですか、これ!?偶数チームが3人で奇数チームが9人!?馬鹿なんですか!?パワーバランスならともかくとして、折角12人で6人ずつのチームにできるのに、何で人数比が合わなくなる可能性が高いサイコロなんかで決めちゃうんですか!?ココは普通、本当にくじを作るなりあみだを作るなりして人数調整はするところでしょ!?作者は頭おかしいんですか!?」
 怒涛の勢いでキレるマホちゃん。
 うん、まぁ言いたいことはわかるような気もする。
「うん、まぁ作者もサイコロを振って、前半で奇数が出まくってからその可能性に気づいたらしいが」
「アホですねぇ!?」
 おぉ、いつになくマホちゃんのツッコミが冴えわたっとるわ。
「断固やり直しを要求します!!」
「まぁ確かにこの人数じゃただのいじめだし、楽しめないわよねぇ?」
「っていうか、勝てるわけないじゃん」
 偶数チームの三人とも抗議。
「仕方ない。非常に面倒くさいが、あみだを作るか」
「最初からそうしてください」
「さっきの箱の意味はあったの?」

で、結果
キク:B
バト:B
ナタ:A
ハード:A
ゼノ:B
茉莉:B
ホロホロ:A
春香:A
雪原:B
露:A
香純:A
莢架:B

「という結果になったが?」
「まぁ、パワーバランス的にはまだ結構差がありそうだけど、あみだを作った上にどこに配置するかもサイコロで決めたから、本当にあくまでランダムに作ったチーム編成だから文句は言えないですけど…」
「キクバトナタ莢架だけ、別枠で作っておくべきだったとちょっと後悔ですねぇ…」
「説明的な台詞をどうも。ではルールを説明するぞ」

「ルールは簡単だ。相手の陣地に刺さってるフラッグを奪ったチームの勝利。相手を攻撃する際は必ず雪で攻撃する事。雪玉は何度あたってもリタイアとかはない。ただし」
 木之下君が雪丸に雪玉を投げつける。
 ばすっ
「ひぃぃいいい!??」
「ゼノ特製の薬品で固めてあるから怪我はしないが、当たると滅茶苦茶痛い」
 それは、嫌だな…
「では、五分後にゲームスタートだ」


<Side:白>
「さて…」
 こちらはAチーム改め白組、メンバーは筋肉ダルマ、ゲーマー生徒会員、お嬢さん2人、先生、そしてワタシ。
 うむ…
「どう考えてもウチらの分が悪いわよねぇ…」
 お嬢さんの一人が呟く。
「紅組の方は不死身のキクに、鬼畜バト、しかもお姉ちゃんもいて、茉莉ちゃんもいる。それに対してこっちの攻撃の要は筋肉馬鹿のナタ一人…どうやって勝てってのよ」
 盛大な溜息。
「ふっ、この俺の筋肉を持ってすればそれくらいのハンディ、屁でもねぇぜ、ホロホロ?」
「ふっ、そしてこの俺を忘れていないか、ホロホロ?数々のシミュレーション、戦略ゲームを攻略し、ノーゲームノーライフ…いや、ノーPS2ノーライフとまで言わしめたこの俺を。今時PS4が出てる中、PS2なんて骨董品とか言わせねぇぜ?」
「あんたたちまでホロホロ言うな!」
「う~ん、それじゃあ宮原君には何か秘策はあるのかな?」
「おぅ、任せておけ。ずばり作戦は――――」


<Side:赤>
「特に作戦は無い。各自勝手に特攻しろ」
 皆の姿を一瞥し、作戦指揮官のバトさんが開口一番そう言い切る。
 いやいやいや。
「そう言っても、向こうも何かしら対応策を立ててくるだろうし、ただやみくもに突っ込んでも…」
「はっはっは、茉莉ちゃんったら心配性だな~。こっちには悪魔の木之下、不死身の葉月会長、そして恐怖の大神姉がいるんだよ?負けっこないじゃん」
 雪原君が能天気に笑ってる。
 バトさんと同じチームになったことで勝利を確信したんだろう。負けっぱなしの人生で、いつになく楽しそうですね。
「なんなら、僕一人で特攻して、見事フラッグを奪ってきてあげるよ」
「「「あ~~」」」
 この後のお約束が目に見えて皆で口を揃える。
 合掌。
「ふん、どうせハードが立てる作戦など予想できる。特に問題は無い。各々で存分に楽しめ」
「じゃあ、勝手に楽しませてもらうわねぇ」
 莢架さんがいたずらっ子の、でもドSの微笑みを浮かべる。
 穂香、ご愁傷様…



「意外と面白い組み合わせだったからな。この作戦でいく。いつまでもバトに作戦参謀役を奪われてたまるか…!じゃあ、ミッションスタートだ!」
 我が白組の作戦指揮官の号令。
 そして始まる合戦。
 まぁ、ワタシもやるからにはちょっくら本気で行かせてもらおう。
 第一陣、前衛、ワタシとホロホロ?と呼ばれていたお嬢さんが突っ込む。
 対して相手方はまず、予想通りと言うか当然というか、アホが突っ込んでくる。
「ふはははは!こちらに木之下がいるってことは負けは無い!悪いけど日枝、この勝負僕達が勝たせてもら…ひぃぃ!?」
 瞬殺。
 遠方からの筋肉ダルマの投擲により、文字通り雪ダルマになる一名。
 まずは一人目。
 中衛の筋肉ダルマが化け物じみた力で投擲し。
 後衛の二人はバリケードで身を隠しながら雪玉を作りつつ、フラッグの守り。
「うぉらー!!勝負だナタぁああ!!&俺の翼たちぃぃい!!」
 うぉっ!何かキモいのが猛烈に雪玉を乱発しながら特攻して来た。
 その傍で無言の超スピードで駆る木之下君。超怖ぇえ。
 筋肉ダルマの玉(当たると超絶に痛いらしい)を受けてもノーダメージの会長と、全く玉がかすりもしない木之下君。
 そしてこちらにも乱射してくる。
「危なっ」
 ざしゅっ。
 木刀でいなす。
 当たったら滅茶苦茶痛い雪玉なんて当たってたまるか。
「ぬぉ!?木刀とか反則じゃね!?」
「いや、相手を攻撃するのは雪限定だけど、身を守るのは特にルールで決まってないし」
 ウチの作戦指揮官の声がそううそぶく。
 そして攻撃するのは雪限定であって、雪玉限定ではない。
「鉈神君!出来たよ!!」
 後衛で雪玉を作ってたお嬢さん(無個性)が筋肉ダルマに叫ぶ。
 そっちを見ると…うぉお、でけぇ…
「これで終わりだぁあ!!」
 一瞬、世界が闇に包まれた。
 ようは、上空の太陽が一瞬、巨大な塊で隠れたということ。
 つまり、アホみたいに巨大な雪の塊が筋肉ダルマにより放り投げられたということ。
 そして……
「………」
 沈黙。
 ものの見事に巨大な雪山が出来あがり、埋もれる会長。
「不死身の敵は封印するのがセオリーだ」
 森羅万象世界の摂理とでもいうかのようにそう言い切る指揮担当の声。
 だが、当然の如くそんな攻撃を受けることも無く、はねた雪もかすりもせず突っ込んでくる神速の男。
「力と速度の勝負か…面白い、受けてたとう」
 息巻く筋肉ダルマ。
「ちょっと~、バト君。私に当てたら許さないからね」
 &筋肉ダルマのサポートに回る先生。
 何か木之下君すっげー嫌そうな顔してるな。
「ふっ、キクがいなくなれば必然的にナタVSバトになる。だが、雪合戦というルールでは機動力の高いバトの方が圧倒的優位。そこで、驚異のジョーカー返しの登場だ!」
 高笑いしながら自信満々にのたまう作戦指揮。
 よく分からんが、後ろは任せよう。
 こちらはこちらで攻めさせてもらう。
 ところで、こっちの相方は…
「ちょっ!?やめてよお姉ちゃん」
「あらあら、半泣きになってる穂香ったら可愛い」
 攻撃をすべてかわしつつ、相手の服の中に雪をつっこむという、地味に嫌な攻撃をしているお姉さま。
 うむ、こちらはこちらでおっかねぇお姉さまを引き留めていてもらおうか。
 残る敵は二人。
 マホちゃんとSSS(死んだ・秋刀魚の目をした・生徒会役員)。
「うりゃっ、大地斬!」
 木刀で地面の雪を叩き割り、氷のつぶてを飛ばして攻撃&目くらまし。
 その隙に近づく。
 が、向こうもやはり只者ではなく、こちら側が飛ばしたつぶて&雪玉を全て蹴り技で弾いていくマホちゃん。すげぇ。
 にしても、まずいな。
 こっちは一人。
 対して向こうはマホちゃんとSSSの二人。
 早く決着をつけてくれないとこっちの身がもたねぇ。
「うぉう!?」
 どんどん補充されていく玉を頭脳は大人の少年探偵かって感じに蹴りで向けてくるマホちゃん。超器用。
「くっ…」
 防戦一方。
 が、なかなか楽しんでいる自分もそこにはいた。


 雪玉が飛び交う中、ふと脳裏に浮かぶのは幼き日の記憶。
『うおりゃ』
 ばしっ
『冷たっ!やったなぁ露!』
『おもしろそ~、お姉ちゃんも入れてくれないかな~?』
『むぅ…』
 さっ
『ありゃりゃ、嫌われちゃった?』
『恥ずかしがり屋なだけだよ。ほら、露。叔母さんも入れてあげようよ』
『……お姉ちゃんだよ~?』
 叔母さんっていうのが冗談なのか、お姉ちゃんってのが冗談なのか。
 イマイチ判断に困ったけど…
 あの時の雪の冷たさが、何故だかまだ肌に残っていて…


「取ったどぉおお!!」
 と、そんな声で現実に帰る。
 敵陣を見ると、我がチームの指揮担当がフラッグを握っていた。
「って、え!?ハードさん、自分の陣地にいたんじゃ…?」
 驚くマホちゃん。
 しかし、ウチの指揮担当の口元にはインカム。
 そう、ウチの指揮担当はトランシーバーで喋り、自陣から声を出すことで後衛を勤めていると見せかけていた。
 そしてワタシ達が戦っている隙に隠れながら敵陣に潜入、フラッグを奪うという作戦を立てていたのだ。
「ふっふっふ、俺の作戦の勝利だな……って抜けねぇ!?」
「フラッグも俺の特製薬品で雪を固めてあるから抜けないよ」
 雪に刺さっているフラッグを抜こうと必死になっている指揮官に向け、さらりと言うSSS。
「それズルくねぇ!?って、ぶほっ」
 そしてマホちゃんの攻撃で撃沈。
 一方、ウチの陣地の方はというと…
 当たらなければ意味が無い。とでもいうかのように幽鬼のように立つ無傷の木之下君(手にはフラッグ)と、目的がフラッグ死守ではなく木之下君撃墜に切り替わり、その肉体を駆使し嬉々として木之下君に雪玉を投げ続ける筋肉ダルマ。
 雪に埋もれてるお嬢さん(無個性)と、
「うぅ…許さないわよバト君…」
 と雪まみれになりながら涙目で訴える先生の姿があった。

 赤組Win!!

 ってなわけで、しゅーりょー。
 負けたけど意外と楽しめた、かな?

「じゃあチームを変えてもう一戦するか」
「今度はもうちょっとチームバランスを考えたほうがいいかもね」
「おいゼノ!今度は薬品禁止だからな!」
「雪合戦も良いけど他にも何かやんねぇ?」
「例えば?」
「缶蹴りとか?」
「約一名ほど、反則的なスピードの人がいるんですけど…」
 皆がワイワイと楽しげにしている。
 それをちょっと離れたところから眺める。
「青春ねぇ~」
 いつの間にやら傍にいた先生が微笑みながらつぶやく。
 そう、これもかけがえのない青春ってやつか。
 皆が楽しげに過ごしている中に自分もまざっている。
 あの頃からは考えられなかった光景。
 全ては流れ変わっていく。
 いつまでも立ち止まってはいられない。
 それでも、結局は同じ場所で立ち尽くしている。前に進むことが出来ない自分がいる。
 この今のモヤモヤもいずれは消えていき、いつか前に進むことが出来る日が来るのだろうか。



  • 最終更新:2016-01-26 22:57:15

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