燃えろ!激闘の体育祭【Ⅰ】

「本日は天気にも恵まれ、いい感じに日頃の鬱憤を晴らすかのようなプレイを展開してくれるだろう。そしていい感じに透けてくれるだろう。野郎ども!今日という日はいつもはお堅いあの子も、引っ込み思案なあの子も、健康的な汗を肌に浮かべながら動き回るのだ!!俺が許す!今日1日で目の保養をしやがれ!!」
「「「うおおおおお!!」」」
「あのーそういう行事じゃないですよ。あと、あんまりジロジロ見ないで下さいよ・・・聴いてないか・・・」

 
 という訳で体育祭です。
 キクさんではないが天気に恵まれたのは幸いといえる。別に透けるのは期待していない。
 逆に公然とあんな発言されたもんだから、巡回時にいかがわしいことをしようとしている男子がいたら 容赦するな との上からのお達しがあるほどである。
「今日は負けねぇぞバト!」
「どうぞ。俺は興味ない」
 ヒートアップするナタさんと対照的に冷めているバトさん。
 こんな日でも本を読みますか、あなたは。
 自分のためか、はたまた本のためか日焼けを避けようと日陰で本を開く辺りはさすがの一言に尽きる。
 更にブックカバーで完全ブロック。
 傍から見ると、あら不思議。文学少年にしか見えません。
 本人曰わく別に狙ってなく 本の防備以外の意味はないらしい。彼なら狙ってそうだが・・・。


 組は縦割りで赤白紫の三種。
 キクさん ナタさんの筋肉コンビが赤。
 残りの生徒会メンバー+穂香が紫。
 春香、飛鳥ちゃん 雪原くんが白 である。
 ちなみに教師も各色に振り分けられる訳で ツッキーが赤の長らしい
 んで 紫のはというと・・・
「いやはや…会長も良いこと言うなー」
「引っ付かないでください。読書の邪魔です。何より暑い」
「そんなこと言わないでよ~。はあ落ち着くわ~」
「落ち着くな!」
「本当、バトはツンデレだ。うひひ」
「だ・れ・が・だ!!」
「照れるな照れるな。ほらお姉さんには甘えていいんだよ」
「・・・お前な・・・」という感じで我らが頼れるお姉さん、香純先生
「いい年した既婚者が何してるんだか・・・」
 どういう縁だか知らないがべたべたくっついている。完璧に玩具扱い。
 これは何か裏がありそう。あとで本人に聞いてみよう。勿論先生にだ。
 こっちはこっちでそれに見合う代価を支払う必要があるのけれど・・・。はあ、またコスプレか。
 この前の下着なしでYシャツ(第二ボタンまで外して上目遣い。しかも涙目を強要)は恥ずかしかった。
 今回は多少の譲歩を請求しよう。
 毎回眼が血走ってるし、息遣いも荒いのだ。
 ボクだから逃げないけど普通なら悲鳴のオプション付きだね、確実に。
 ああ、穂香も大丈夫だっけ。慣れって怖い。


「さて、では戦をおっぱじめる前に験担ぎしようかね」
「今年は同じ組だからね。やらなきゃ損でしょ」
 験担ぎとはボクたちの場合はたった一つ。とある狂乱科学者を奉ること。まあ、詰まるところ。
「皆のもの、幸運のゼノ神様に祈りを奉げるのだ!!」
「「「「おおおおおおおおお!!」」」」
「ゼノ神様、ゼノ神様。どうか我らに勝利を・・・」
「神よ、どうかご加護を・・・」
 幾たびの爆発事故を起こしながらも、すべてにおいて怪我ひとつ無いという奇跡を現在進行形で繰り広げている。月見丘学園の青い鳥、瀬野 雪杜 その人である。
「ん?毎回俺を立てるのは何故なんだ?まあ、悪い気はしないが」
 この炎天下、白衣を着て崇められる一生徒。しかも飲み物は試験管に入れてストローで飲むと言う目を疑うようなスタイル。
 ・・・物凄いカオスな気がする。
 それより、あなたも参加する気なさそうですね
「俺は勝利より、彼女が欲しいです」
「というか、2-Dの大神がほしいです」
「俺は宝城がいい」
「三門先生だろ、ここは」
「このロリコンが!」
「ツンデレなんてありふれてるんだよ!」
「人妻に色目使うな、変態!」
「「「なんだと!?」」」
 いや、「なんだと」はこっちの台詞だよ。ドサクサに紛れてなにカミングアウトしてるんだか・・・。
 ゼノさんは本来神じゃない上に、恋愛については無縁もいいところだ・
 ボク個人の意見としては茉莉=ロリというのは全力で撤回を求めたい。
 少なくとも、そのロリは裏の世界ではちょっと名を通っている事を教えてあげたい。
 いや、言わないけど。誇れるものじゃないし。
 本当にこの学校は大丈夫なのだろうか・・・。
「毎年、よくやりますね。本当にご利益あるのかしら」
 ボフと頭の上に重量感とともに喧騒のなかでも通る、凛とした声が紡がれた。
 こんな事をする人は結構いるのだけれど、口調と内容から、ある一人の女性が導き出される。
 ボクは頭上の女性に彼女も予想している通りの返答として、あるんじゃないですか、答える。
 彼女は興味もなさ気に、フーンと気の抜けた返事だけをして、頭に置いた手を徐々に降下させ・・・
「うひゃ!?」
 ボクの胸に手を置く。ち、違う!揉んでる!?ちょ、ちょ、ちょっと待って!?
「せ、せんぱ・・・んっ!?だ、め・・・あっ!?そ、そこは・・・」
「いいではないか。いいではないか!はあはあ・・・」
「あ!っく・・・んあ!?い、いいわけないでしょ!!」
 背後の敵への腰を入れての回し肘打ち。が、受け止められる。
 まったく無駄に反射がいいから困る。
 しかたなく受け止められた腕を強引に引き上げ、顎を打ちに掛かる。これは仰け反って避けられるが、その間にがら空きの胸元に左手で掌。後ろに飛んで威力を殺されたが離れると言う目的は果たせたため、結果オーライ。
「うん。今日も感度良好。いやどうも。個人的には満足です」
 乱れたショートカットを軽く手櫛で梳き直し、すらりと切れ長の眼鏡を上げながらクールな笑みを浮かべる。
「これなら、我が妹に近付く日も近いですね」
「何の話ですか!?」
「くっくっく・・・分かってるくせに」
「っく!本当にあなたは・・・。妹の友人にセクハラですか、大神先輩」
「莢架(さやか)って呼んでよ。ふたりも大神はいらないし」
 この人、大神 莢架さんはボクの親友、大神 穂香の1歳違いの実姉である。
 以前お宅にお邪魔した際に豪く気に入られてしまい、こういうちょっかいを受けている。
 話ではキクさんのクラスの委員長らしく、学年では主席候補の一人との事。
 高・大エスカレーターのこの学園においては大学時での活躍が大いに期待されている。
 でも、ほら言うじゃん。世の中、完璧な人間って居ないって。この人はホラ、性格が・・・。
「今、性格に難があるって思ったでしょ、マイ・ラマン?」
「お、思ってませんよ。って誰がラマン(愛人)ですか!本妻も居ないのに」
 ていうか、妻がもてないでしょ。
「いるじゃん、穂香」
 まさかの近親者だった。
 ああ、穂香。君はボクをファザコン&シスコンっていうけど、君ほど堕ちちゃいないよ・・・。
 親友に対して哀れみを感じ、空を見上げる。ほら、浮かんでる。笑みを浮かべる、穂香が・・・
「勝手に殺すな」
「いたっ!」
 後方から本人にチョップされた。身長差がある分痛い。
 何時の間に来たのだろう。ボクは唸りながら頭を擦る。コブなんないかな。
 穂香は腰に手を当て、仁王立ちで、犯罪者予備軍の姉に対して文句を言い始める。
「たく、あんたらはこんな公衆の面前で何をしてるんだか」
 ボクも入っていた。勘弁してよ・・・。
「何って、マイ・シスター。言うまでもなく女子限定の華の園へ旅立とうとしていたのだよ」
「何処よ、それ」
「百合の世界。いうならばレz」
「だから、自重しろ!」
「ボクは行く気ないです!行くなら二人で行って!」
「ちょっと、茉莉!?私も行かないわよ!」
「なお、強制送還なので。あしからず」
「「人権無視!?」」
 
 暫くいい騒いだ挙句、精神的に体力を消耗したボクらをよそに妙に肌を艶やかにして、先輩は自軍へと帰っていった。
 これで、体育祭が始まっていないのが驚きだ。
「・・・いこっか」「・・・うん」
 フラフラしながらテントへ戻る。生徒会役員だから仕事はたくさんあるのだが体が持つだろうか。

大きな不安を少女二人に齎したまま、体育祭の競技が始まる。
 
続く


  • 最終更新:2009-04-26 20:06:11

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