魔法少女まじかるココア~中編~

「で、なんで私はこんなハイキングしてるのかな?かな?」

半信半疑で私は早速魔法とやらを試そうと思ったわけだけど、「場所を移す」とか言われて延々と人気のない近所の山をハイキングする羽目となっていた。
正直、こんな人気の無いところに連れ込まれてナニされるのかと思うと気が気でもないが、相手は所詮藁人形である。
ヤバくなったら一目散に逃げる心の準備だけしておけばよさそうである。
ちなみに、このハイキング自体は結構気分がいいもので、空気も綺麗で眺めも綺麗、時折聞こえる雲雀の囀りが心を癒してくれる。
眼下に広がるパノラマは直面している問題なんて些細なものだと感じさせるに充分なものである。
このまま爽やかに『いい最終回だなぁ』という感じで打ち切ってくれたら、どれほど救われる事だろうか。

「ここまできて大した能力もありませんでした、残念でした、じゃ済まないわよ。」
「その点なら大丈夫なのだ。
 僕の能力は最強なのだ。」
「本当かしら?
 ギャグマンガ日和みたいなしょうもないネタが待っているんじゃないかしら?
 ほら、この小説、相当短いみたいだし、あんまり凝った真似はできないわよ。」
「心配しなくてもいいのだ。
 ……う~ん、この辺りならいいかな?
 じゃあ、そろそろ説明を始めるのだ。」
「もうそういうのはいいから、適当に始めなさいよ。」
「そういうわけにはいかないのだ。
 折角キクジラさんが細かい世界設定とか作ったんだから、自分語りぐらいさせるのだ。」
「ぶっちゃけ過ぎだ!?
 いえ、それよりも細かい世界設定が存在する事の方が驚きよ!」
「そういうのを考えるのが好きな人なのだ。
 え~っと、まず、なんで僕みたいな人形がいると思う?」
「……魔法少女に人形や縫いぐるみはお約束だから?」
「半分正解、半分不正解なのだ。
 僕たちは“触媒”なのだ。
 ココアたち魔法少女が単純に魔法を唱えても魔法は発動しないのだ。」
「つまり、あんたたちが居なきゃ魔法は使えない、っと。」
「飲み込みが早くて助かるのだ。」
「伊達に受験生やってないわよ。
 触媒とかそういう言葉には飽き飽きしているわ。」
「じゃあ、続けるのだ。
 僕たちはそれぞれ一つずつの魔法の触媒になっているのだ。
 もし、僕が持っている魔法以外の魔法が使いたかったら、世界のどこかにいる別の魔法少女の触媒になっている人形を――」
「――譲ってもらうなり奪うなりすればいいってわけね。」
「その通りなのだ。
 さっきから展開が早くてキクジラさんも助かるのだ。」
「さっきから言葉の端々に出てくるキクジラさんって、誰?」
「僕らの生みの親、つまり作者なのだ。」
「ああ、私をこんな目に遭わせている張本人ね。」
「……言葉は悪いけど、その通りなのだ。
 じゃあ、そろそろ魔法を使ってみるのだ。」
「漸く話が前に進んでいる気がするわ。」
「それじゃあ、僕の言うとおりに復唱してね。」

長い長い前置きも終わって、この呪い人形は詠唱モードに入った。
私もそれに倣った。

「終焉は来たれり。」
「終焉は来たれり。」

足元から光り輝く円陣が出現した。
それと同時に、自分もこの円陣の一部と化し、魔法という機関の中の一つのネジになったかのような錯覚を抱いた。

「虚空より舞い降りし旋風は鮮烈なる刃と化し、」
「虚空より舞い降りし旋風は鮮烈なる刃と化し、」

幾つもの円陣が複雑に絡まり、幾何学的に整合性を持った紋様を編み出し、魔方陣を形成する。

「浄化の炎は万物の穢れを祓わん。」
「浄化の炎は万物の穢れを祓わん。」

自分自身の中に何か得体の知れない強力なエネルギーの塊が流れるのを感じる。
もはや、自我と外界の境界すら曖昧であった。

「我が呼び掛けに応え、顕現せよ、厄災の権化!」
「我が呼び掛けに応え、顕現せよ、厄災の権化!」

ねぇ、さっきから呪文が物騒なのは気のせい?

「「カタストロフィー!!」」

刹那、白く煌く光が辺りを包み、猛烈なる爆風が襲った。
周囲に生い茂っていたはずの樹木は一瞬のうちに蒸発し、真空に近い灼熱の大気が吹き荒れていた。
もはや、音は音としての形を失い、光は光として認識する事すらできなくなった。
私の周囲100m以内にはあらゆる物体の存在が許されなかった。
筆舌に尽くし難い破壊のみが存在していた。



静かだった。
閑かであった。
山が存在していた部分には巨大なクレーターが大きな口をあけていた。
その破壊の跡の中心部には、一つの呪いの藁人形と独りの少女が生まれたままの姿で立ち尽くしていた。
というより、それは私だった。





  • 最終更新:2009-11-11 19:38:07

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