3-2 世話焼き王子と頑張り屋のお嬢様

「今度はその箱を準備室に運びますわよ」
「うへぇ……」
「あら、弱音なんて吐かせませんわよ?」
 西園寺会長の後を段ボール箱を抱えて着いていく。
 これ、結構重いんですけど…

 二学期の期末試験も今日で最終日。
 明日から冬休み前の試験休みなんだけど、その前に生徒会では色々と年度末の後片付けがあるらしい。
 いつもは会長の手伝いは大抵、八王子君がやってるんだけど、今日は別件で仕事があるらしく僕が代わりにお手伝い。
 なんだけど、会長はなかなか人使いが荒い。

「試験明けって、結構勉強疲れとか出てて大変じゃないですか?」
 と、ちょっと言い訳をしてみる。
「試験なんて普段からの予習復習、そして真面目に授業を受けていれば問題なく高得点が取れます」
「あ、あははは…」
 ばっさり一刀両断。
 赤点は無いだろうけど、そんなに誇れる点数は取れてない僕的にはちょっと耳が痛い。
 冨坂さんは僕の仲間かな?
 対して会長は常に学年トップの成績。
 確かに普段からの勉強をしっかりしていれば高得点はとれるだろう。
 でも、高得点どころか満点を取るためには、樹さんみたいな例外はあれども、それ以上の努力が必要なのでは?
 自分が努力している所を決して見せない会長。
 ここ最近も次期生徒会へ引き継ぐための作業をしてたり、年度末の学校行事の準備をしたりと忙しそうにしていた。
 それに加えて、恐らくは期末試験の勉強も。
 疲れた顔を見せないで働き詰めの会長。

 突拍子も無い事を言い出したり、人使いが荒かったりするものの、いつもみんなのことを見ていて的確な指示を出したり、人望も厚く頼りになる人には違いない。
 一見、全く問題なさそうにも見えるけど、実は無理しすぎなのでは…?

 と、階段に差し掛かった時
「……あら…?」
 会長の身体が一瞬傾く。
「会長!」



 消毒液の匂いに目を覚ます。
 視界に映るのは天井と白いカーテン、そして…
「気づいたか真奈姉」
 自分の顔を覗き込む男子生徒の姿。
「一応確認するけど、頭とか打ってないよな?俺のことわかるか?」
「高尾…」
「ん、大丈夫そうだな。なんか西新井がやたら心配してたからさ。頭打ってないかどうかとか」
「心配性ですわね」
 身体を起こす。
 若干まだ頭がぼぅっとしている。
「何が起きたか覚えてるか?」
 ベット脇の椅子に腰を掛けながら確認してくる。
「階段で貧血を起こしてふらついて、そのまま落ちましたわ…」
「ん、そこまで覚えてれば全く持って問題なさそうだな。ったく、無理しすぎなんだよ」
 呆れたように溜息。
「学校の様々な雑用を引き受けて、なおかつ各種行事、雑務の業務処理。程よく周りを使っているようにも見えるけど、本当に大事な事や殆どの作業は大体自分一人で片づけてるんだろ?」
「ワタクシはこの学園の生徒会長です。生徒会長が学園の業務を行うのは当然のことです」
「それにしても全部一人で抱えすぎなんだよ」
 またも溜息。心底呆れた、というように。

「ワタクシは、強くなければなりませんから…」
 ぽつりと漏れる呟き。
「それは責任感からか?」
「………」
「はぁ…真奈姉を生徒会長にしたのは、失敗だったかなぁ」
 かつての生徒会選挙を思い出す。
 彼女の凄さを皆に知らしめたくて行ったことが、かえって彼女のプレッシャーになっていたのだとしたら。
「ワタクシは自分の意志で生徒会長になったのです。あなたが心配することは何もありません」
「まったく…少しぐらいは弱みくらい見せてくれたっていいんじゃねぇの?」
 この人はいつもこれだ。
「いつもいつも強がりばっかで、周りには弱みを見せないでさ」
 だからこそ、心配になる。
「俺にも少しくらい真奈姉のこと守らせてくれっての」
 自分は強くありたい。でも、そんな自分を守りたいという男の子。
 その気持ちは凄く嬉しい。
 けれども、少し寂しくも思う。
「それでも、あなたにとってはいつまでも『真奈姉』なのですわね…」
 彼にとっては自分は『真奈姉』だから。
 だからこそ自分は強くなければならないのだと。
「…なんだよ、そんなん気にしてたのか」
「べ、別に気にしてなど」
「俺にとっては真奈姉はいつまでたっても真奈姉なんだよ」
「……」
「昔から皆の中心になって皆を引っ張ってって、頼りになる姉貴分だけど、でもどこか危なっかしくて、目が離せなくて」
「真奈姉は昔からそうだからさ」
 だから、放っておくことが出来なくて。
 ずっと傍に居たくて。
「そんな真奈姉のことを昔からずっと守りたかったんだよ」
「高尾……」
 昔からずっと一緒だった。
 自分の方が年上だから。
 だから、頑張って。
 いいところを見せようとして。
 弱い自分を見せたくなくて。
 でも、だからこそ彼は、そんな自分を守りたいと思ってくれていて。
 その気持ちが嬉しくて…
「ありがとう…」


「もう大丈夫ですわ。戻ります…って痛っ!?」
 立ち上がろうとすると足に激痛。
「足から落ちたおかげで頭打たずに済んだんだよ。まぁその代わり足ひねったみたいだけど」
 自分の足を見る。
 足首には包帯。
 ちょっと不恰好かもしれないが、それでも心を込めて巻いてある。
「これ…高尾、あなたが?」
「保健の先生がいなかったからな。それに怪我の手当ては昔から真奈姉ので慣れてるし」
「……恩に着ますわ」
 そっぽを向きながら礼の言葉。
 その頬は少し赤みがさしていた。

 ところで、ふと思った疑問。
「ワタクシが眠ってる間、変なことはしてませんわよね?」
「相変わらず見目麗しゅうおみ足でした」
 枕が飛んでくる。
「一言余計ですわよ」
 やっぱり、彼との関係はこんな軽口を叩けるくらいがちょうどいい。

「さてと…」
 いざ保健室から帰る際
「ほい」
「?」
「だって、その足じゃ歩けないだろ?おぶってやるよ」



「ん?あややは知らんかった?お嬢と王子、幼馴染なんだよ」
 冨坂さん樹さんと残りの仕事を片付けると、保健室へ足を向ける。
「あ~、どうりで」
 いつもの八王子君の会長に対する態度とか
 そもそも会長に対する二人称とか。

 そして僕達が保健室へ到着すると。
 保健室から出てきた会長と八王子君とばったり。
 だけど、会長は八王子君におんぶされる形での登場だった。
 僕達に見られたことにより会長の顔が真っ赤に染まる。
「!?こっ、これは違うのです!!」
 会長が何か必死に弁解している。
「ちょっ!?高尾降ろしなさい!!」
「いやいや、今更恥ずかしがることないじゃん」
「いいからっ!降ろしなさい!!」
「ちょっ、真奈姉背中で暴れんなってっ!」
 あまりに会長が暴れるからか、仕方なくといった感じで背負っていた会長を降ろす八王子君。
 だったのだけど
「―――っ!?!?!?」
 地面に足を付いた瞬間悶える会長。
「ほら、だから言わんこっちゃない」
 それ見たことか言わんばかりに、呆れ交じりの声音で八王子君。
 でも、それでも会長を見守る眼は優しげで。
「まったく、しょうがねぇな真奈姉は」
 そう言った八王子君の声は優しさに溢れていた。

『まったく、しょうがないなぁ、   は』

 僕の背中に隠れて様子をうかがう少女の姿。
 その子に向けて言った言葉。
 ふと、脳裏によぎった光景。
 少女の顔は思い出せない
 これは、誰に向けて言った言葉だったんだろう。
 ただ、確かに感じるのは。
 胸がとても温かくて、そして誇らしくて。

「どうしたの?西新井君」
 冨坂さんに声をかけられて現実に意識が戻る。
 まただ。
 最近、こういうことがよくある。
 何か、とても大切なことを思い出しそうなそんな感覚。
 でも、それが何なのか、未だによくわからない。
「あ、いや別に何でもないよ」
 そう、わからないことであるのならば、今の僕たちにとってはもう何でもないことなんだから。

 五日市さんと深川さんの時もそうだったけど、西園寺会長と八王子君、この二人を見ても思う。
 幼い頃から培ってきた大切な思い出と気持ち。
 それはきっとかけがえのないものなんだろうな、と。
 今の僕が持たないもの。
 それを持つ二人。
 そんな二人が少し、羨ましく思えたのだった。



  • 最終更新:2016-03-14 22:28:17

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